庄司甚内

「おやじ橋っていうんでさ」
「それはここに書いてあるが、どういうわけで」
「庄司甚内ってえおやじがこの町を開いたからでしょう。廓(くるわ)で流行(はや)っている小唄に、こんなのがありますぜ」
 菰(こも)の十郎は、廓(くるわ)の灯に浮かされて、低い声で唄い出した。
おやじが前の竹れんじ
その一節(ひとふし)のなつかしや
おやじが前の竹れんじ
せめて一夜と契(ちぎ)らばや
おやじが前の竹れんじ
いく世も千代も契るもの
ちぎるもの……
仇にな引くな
切れぬ袂(たもと)を
「先生にも、貸しましょうか」
「何を」
「こいつで、こう顔を隠してあるきます」
 と、稚児(ちご)と菰(こも)のふたりは、茜染(あかねぞめ)の手拭を払って、頭からかぶった。
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